ポジティブリスト制度

平成15年5月、食品衛生法等の一部が改正され、食品に残留する農薬、動物用医薬品及び飼料添加物に関し、ポジティブリスト制度を導入することが決定されました。厚生労働省では約3年の歳月をかけ新基準等の作成を行ってきましたが、平成18年5月29日より厚生労働省告示497号~499号としてポジティブリスト制度関連法案が施行され、ついに本制度の運用がはじまりました。

本制度によって残留農薬検査を取り巻く環境はどのように変わったのでしょうか。以下に本制度の概要について解説いたします。

解説

  • ポジティブリスト制度導入の経緯

     ポジティブリスト制度以前の食品衛生法では約130品目の農作物に対し246種類の農薬について、17種類の畜水産物(豚、牛、えび等)に対して31種類の動物用医薬品についての残留基準が設定されており、基準値を超えた食品に対してはその流通・販売を禁止する措置がとられていました。しかし従来の制度では残留基準の設定されていない農薬等については残留していても規制することができず、以前から問題になっていました。

     平成13年から14年にかけて、中国産野菜の残留農薬問題や国内での無登録農薬の使用が大きな社会問題になると、厚生労働省は食品の安全性の更なる向上を図るため、これまで規制の対象外であった化学物質に対しても基準値を設定する方針を発表しました。本制度は従来の「残留をしてはならないものを一覧にして規制する」ネガティブリスト制度と異なり、「原則残留を認めず、残留をしてもよいもののみ一覧にして規制する」という考え方からポジティブリスト制度と呼ばれています。

     平成17年11月に厚生労働省より告示されたポジティブリスト制度によると、対象物質は農薬、動物用医薬品又は飼料添加物等合計799種類にのぼり、平成18年5月29日からはこれら薬剤について後述する暫定基準が農作物・畜水産物・飼料だけでなく加工食品についても設定されることになりました。

  • ポジティブリスト制度の概要

     新しく導入されるポジティブリスト制度の大きな特徴は、複数の基準により成り立っていることです。まず食品衛生法に残留基準がある薬剤については残留基準が適用されます[下図]。次に残留基準のない薬剤については暫定基準が適用されることになります。暫定基準は(1)国際基準であるコーデックス基準、(2)農薬取締法に基づく登録保留基準 (農薬の場合)、(3)外国基準が振り当てられ、その優先順位は原則この並びのとおりになっています。

     なお、動物用医薬品及び飼料添加物については、残留基準のない場合の国内基準として、薬事法に基づく動物用医薬品の承認時の定量限界等又は飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律に基づく飼料添加物の指定時の定量限界等が適用されています。また外国基準について厚生労働省は、米国・EU・豪州・ニュージーランドおよびカナダの5カ国の基準を採用しています。なお、暫定基準は各基準が変更される場合もあるので、今後5年ごとに見直していくことになっています。

    暫定基準の考え方

  • 基準のない薬剤に対する処置は?

     では、コーデックス基準も国内基準も外国基準もない薬剤はどうなるのでしょうか。ポジティブリスト制度では、「人の健康を損なうおそれのない量」を基準値とし、国内外に基準のない薬剤に対してはこれを一律に適用することにしています (厚労省告示第497号)。厚生労働省によれば、薬剤の許容量の目安を1.5μg/dayと設定したうえで、我が国の国民の食品摂取量を踏まえ、この許容量を超えることのない濃度として一律基準0.01ppmとしています。また、亜鉛・アスコルビン酸・重曹など65物質については「人の健康を損なうおそれのないことが明らかである物質」としてポジティブリストの対象外物質とされました (厚労省告示第498号)。一方、2, 4, 5-T等15物質に対しては食品中からは検出してはならないと定めています (厚労省告示第499号)。

  • 従来の制度との相違点

     それでは従来の残留基準値とどのように異なるのでしょうか。以下に例をあげてみます。


     従来の食品衛生法では A農薬がリンゴから0.05ppm検出したとしても、A農薬の残量基準がリンゴには設定されていないため食品衛生法違反とはなりません。

     一方、ポジティブリスト制度のもとでは、 暫定基準が設定されていない場合は一律基準 0.01ppmが適用されることになります。このため、上記の例ではリンゴは暫定基準が設定されていないため一律基準が適用されることになり、 0.01ppm以上の残留が認められた今回のような場合、食品衛生法違反となります

  • 加工食品と残留基準値

     ポジティブリスト制度では従来の残留基準とは異なり、加工食品についても残留基準値が適用されることになります。実際にはどのように適用されるのでしょうか。下に例をあげてみました。

    1. 加工食品自体に暫定基準の設定がある場合 → ごく一部の加工食品
      綿実油・らっかせい油等、一部の加工食品には農作物と同様に暫定基準が設定されました。農作物と同様、これら加工食品自体について農薬の残留実態が問われます。
    2. 加工食品自体に暫定基準の設定がない場合 → ほとんどの加工食品

     加工食品自体に暫定基準の設定がない場合、農薬等の残留性は原材料に遡って判断されます。

    [例1]は10%りんご果汁からA農薬が0.05ppm検出された場合です。原材料であるりんご自体にはA農薬の基準が0.2ppmと設定されています。本加工品はりんごを10%使用しているのでりんごの基準値0.2ppm×重量割合10%=0.02ppmが判断基準となります。[例1]の場合では0.05ppm検出されているので食品衛生法違反となります。

    [例2]はうどんからB農薬が0.5ppm検出された場合です。原材料である小麦にはB農薬は1.0ppmと設定されています。本加工品は小麦を65%使用しているので小麦の基準値1.0ppm×重量割合65%=0.65ppmが判断基準となります。従って本例では食品衛生法違反とはなりません。

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