1. 一般生菌数
一般生菌数(生菌数)とは食品の衛生学的品質を評価する衛生指標菌(汚染指標菌)の一つです。標準寒天培地と呼ばれる限られた栄養条件下のもと、好気的にある一定の温度条件下で発育する菌数を測定したもので、食品の取り扱い状態の可否などを調べるための最もオーソドックスな検査項目です。
一般に、食中毒菌がいなければ生菌数が多くとも食中毒事故は起こりませんが、多量の菌が存在するということは、当然、その中に食中毒菌も存在するリスクがあるということです。一方で、生菌数が少ないからといって安全であるとは限りません。なぜなら、生菌数は標準寒天培地という限られた栄養条件で好気的に培養するため、低温細菌やいわゆる嫌気性菌、腸炎ビブリオの様な好塩細菌は発育しないからです。
食品衛生法で定める成分規格(代表的なもので冷凍食品や乳等省令)に細菌数○○以下であると定められている事からも、各種食品製造に従事する者としては日々の品質管理業務に取り入れていくことが大切です。
2. 大腸菌群
大腸菌群は、グラム陰性の無芽胞桿菌で、乳糖を分解して酸とガスを産生する好気性又は通性嫌気性の細菌の一群をいいます。大腸菌群は、ヒトや動物の糞便だけでなく、土壌、水、空気中など幅広く分布し、これらの環境からの汚染指標菌とされています。加熱済みの食品から検出の場合、加熱不良や加熱後の二次汚染など食品の取り扱いの悪さを意味することとなります。また、未加熱の食品から多量に検出された場合もリスクが高いことを示しますが、糞便汚染によるものか環境に由来するものかは判断できません。
3. 大腸菌
大腸菌群の中で44.5℃で発育して、乳糖を分解しガスを産生する菌群を糞便系大腸菌群といい、食品衛生法ではE.coliと表現しています。さらに、IMViC試験のパターンが「++――」または「-+――」のものを大腸菌(Escherichia coli )としています。
食品衛生法では、乾燥食肉製品、生食用かき、加熱後摂取冷凍食品(凍結直前加熱以外)などにE.coliが陰性または○○以下という成分規格が定められています。E.coliは、ヒトおよび動物の糞便に存在する確率が高く、自然界で死滅しやすいなどの理由から、食品中の存在は直接または間接的に比較的新しい糞便汚染を示すものと考えられています。食品が衛生的に取り扱われたか、病原菌汚染の可能性があるか否かを示し、安全性を評価する衛生指標菌と考えられており、通常、自然界からの汚染がそのまま反映される生肉、魚介類、生野菜などの未加熱食品では、ECテストが適用されます。
4. 黄色ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌はヒトや動物の皮膚に常在する細菌の一種です。黄色ブドウ球菌による食中毒は、食品中で増殖した黄色ブドウ球菌が産生するエンテロトキシンと呼ばれる毒素によって起きるもので、この毒素は耐熱性で、食品を加熱して菌を死滅させても毒素はそのまま残ります。それを食べた場合に、だいたい0.5~4時間程度で激しい嘔吐を伴う食中毒を引き起こします。
黄色ブドウ球菌は自然環境に強い抵抗性があり、河川などにも生存し魚介類も汚染を受けることが知られています。また、高濃度の食塩存在下でも発育できるという特性があるため、あらゆる食品が汚染源となるリスクがあります。
5. サルモネラ
サルモネラは代表的な食中毒菌で、その種類は現在2000種類以上に分類されています。乾燥に強く、食中毒の発生要因をみると食肉や卵などの原材料の汚染が最も多く、次に手指からの汚染や調理器具や調理施設からの汚染となっています。
サルモネラによる食中毒はサルモネラ属菌に汚染された食品を摂取し、腸管内で増殖することによって起こる感染型食中毒といわれるものです。主な症状は、嘔吐、水様性下痢などの消化器症状、発熱などで、潜伏期間は約12時間ほどといわれています。最近では鶏卵を原因とする食中毒が増加しており、生の卵を使用した料理やサンドイッチ・サラダ等を原因とする事例が多くなっています。鶏卵由来のサルモネラ食中毒は S.Enteritidis が原因菌であることが多く、特に小児の S.Enteritidis 感染症では潜伏期間も3~4日になることもあるようです。
サルモネラは鶏や牛、豚などの家畜も保菌していることから、食肉へのサルモネラ汚染の除去はかなり困難で、食肉などはサルモネラに汚染されているものと考え二次汚染の防止や十分な加熱を行うことが大切となります。さらに食肉等の取り扱いは低温で行い菌の増殖を防ぐことが重要です。
食品衛生法では加熱食肉製品および殺菌液卵についてサルモネラの成分規格が定められていますが、過去には魚介類加工品などが原因食材となっていたケースもあり、あらゆる食品が原因食材となる可能性があります。
6. 腸炎ビブリオ
腸炎ビブリオは、3%の食塩濃度で最もよく発育する好塩性の海水細菌であり、夏季の海水、沿岸海域付近の海水および魚介類、沈殿物などに広く分布しています。本菌で汚染された魚介類を生食することで、ヒトに感染して腸炎ビブリオ食中毒を発症させます。
日本では毎年、食中毒事故の発生件数、患者数で共に上位で、その発生は気温、水温の高い夏場に集中しています。腸炎ビブリオは、増殖力が早く35~37℃の温度帯では10分に1回の割合で増殖することが知られている一方、低温、高温、真水、酸による処理に弱いため、調理・加工の際には真水で十分洗浄すると共に低温管理する事が大切となります。
7. セレウス
セレウス菌は土壌細菌の一種で自然環境に広く分布し、穀類、豆類、香辛料など土壌と関係する食品が原因となることが分かっています。セレウス菌の中には芽胞を持つものがあり、100℃、30分の加熱にも耐えることができます。
セレウス食中毒は、Bacillus cereus の産生する毒素(セレウス・エンテロトキシン)によって発症する食中毒であり、芽胞を有するセレウス菌がヒトの腸管内で増殖した際に産生した毒素によって発症する下痢型と、黄色ブドウ球菌のように加熱で死滅しなかった菌が増殖して産生した毒素を含む食品を喫食することによって起きる嘔吐型があります。下痢型は喫食後8~16時間で発症し、嘔吐型は1~6時間程度で発症するといわれています。
8. カンピロバクター
近年、日本の食中毒の原因の中でもカンピロバクターは上位の発生率であり、重要な食中毒原因菌です。鶏肉を中心に各種家畜、ペットなどの腸管内に存在し、排泄物により汚染された食品や水を介してヒトに感染します。
カンピロバクターによる感染症は発熱、腹痛、下痢、血便を伴う腸炎症状が見られ、菌が体内に侵入してから発症するまでの潜伏期間が比較的長く、一般的に2~7日かかります。菌の増殖には酸素が3~15%の微好気の環境が必要な点や、低温に強く4℃でも長期間生存するため、冷蔵保存においても食中毒が発生する可能性があります。しかし、凍結状態に弱いことや、加熱により死滅するため食中毒を防止することができます。
9. 乳酸菌数
乳酸菌は農産物や食品のほか、ヒトや動物の腸管,口腔,膣などの体内など、自然界に広く棲息している細菌です。
乳酸菌は時として有益細菌であり、チーズ・ヨーグルトなどの乳製品,ハムなどの熟成,白菜漬け,ぬか漬けなどの発酵食品には必要不可欠な存在です。乳等省令でヨーグルトなどのはっ酵乳は乳酸菌数が1gあたり107以上存在しなければいけないのです。
その一方、時として有害細菌となる『二面性』を有しています。食品の表面に発生するネト,真空包装した食肉製品の腐敗,ハム・ソーセージの変色や脱色,菓子の腐敗原因菌としても知られています。低温から高温まで発育温度帯が広範囲であることや、10%前後の塩分濃度で増殖する耐塩性を有するもの、 無酸素状態で発育,増殖できる嫌気性のもの、pH4.0付近の酸性条件下で生存できる好酸性のものなどさまざまで、食中毒とはならなくとも、しばしばクレームの原因となるケースがあります。
10. 腸管出血性大腸菌
腸管出血性大腸菌は、菌の抗原やべん毛抗原によりいくつかに分類されています。代表的なものは『腸管出血性大腸菌O157』がありますが、その他にも『O26』や『O111』などが知られています。ほとんどの大腸菌は無害ですが、なかにはヒトに下痢などの消化器症状や合併症を起こすものがあり、病原大腸菌と呼ばれています。さらに病原大腸菌の中でも毒素を産生し、出血を伴う腸炎や溶血性尿毒症症候群(HUS)を起こすものがあり、それらを腸管出血性大腸菌と呼んでいます。
腸管出血性大腸菌の感染は、食品や水を介した経口感染で、3~8日の潜伏期をおいて頻回の水様便で発病します。さらに激しい腹痛を伴い、まもなく著しい血便となることがあります。原因食品としては、牛肉やレバー刺しなど以外に、サラダや日本そばなど様々で、井戸水が原因となったこともあります。
発症菌数も100個程度と極めて少ない菌数で感染するといわれ、重篤な症状を起こす腸管出血性大腸菌ですが、菌自体は熱に弱く75℃、1分程度の加熱で死滅します。感染者の便を介しての二次感染も多いため用便後の手洗いなど基本衛生の徹底を図ることが何よりの防止策となるでしょう。